私がまだ小学生の頃のお話です。
あの時の強烈な情景は忘れる事が出来ず、大人になった今でも容易に脳裏に浮かんで思い出されます。
あれは、放課後の学校帰りの出来事でした。
学校のすぐ近くに小さな祠が祀ってある神社の様な場所がありました。
何の神様を祀っているのかも分からず、友達2人と一緒に無邪気に立ち寄った事を覚えています。
私はたまたま仏教の幼稚園を卒園していたので、在園中に自然に覚えたお経を、当時もまだしっかり覚えており、無知でお調子者だった私は、良かれと思って手を合わせ、神社の祠に向かって仏教のお経を唱えながら友達と三人横に並んで近付いて行きました。
すると、祠の前が白くぼやけ、いきなり目の前に白いワンピースのような服を着た長い黒髪の女性が現れ、物凄い形相でこちらを睨みつけている姿を見てしまったのです。
明らかに猛烈に怒っている様子で、一瞬にして恐怖でいっぱいになった私は、「ぎゃ−!!!!!!」と大声を上げて祠の反対方向に猛ダッシュで走って逃げました。
神社を出てから振り返って祠の方向を見ると、もうあの白い怒った女性の姿はありませんでした。
どう考えても、この世の人とは思えないような、恐らく女性の足元は透けていたような、宙に浮いていたような、何とも言えない存在だったのは確かです。
私はすぐ、一緒に悲鳴をあげて逃げていた友達二人に確認しました。
すると、友達が驚きの一言を放ったのです。
「何も見えなかったよ。」と。
2人とも、お経を唱えて祠に近づいていた私が、急に悲鳴を上げて逆方向に猛ダッシュで逃げるものだから、私のその声に驚いて、つられて悲鳴をあげて、一緒に逃げたと言うことでした。
2人が嘘をついている様にはとても思えず、やはりどうやら、あの不思議な女性を目撃したのはお経を唱えていた私だけだった様なのです。
その日は一日中恐怖心でいっぱいでした。
それからしばらくしても、その時の恐怖体験が強烈すぎて、あの神社に近づく事が出来ませんでした。
あの白い女性は、記憶の限り、ものすごく怒っていたのですから。
当時は何故、怒っていたのか分かりませんでしたが、大人になった今考えてみると、神社の祠に向かって仏教のお経を唱えるなんて、幼かったとはいえあまりに失礼だったのではないかと私なりに考えています。
時が過ぎて、あの時の記憶が消える事はありませんが、神社の前を通る事が何度かありました。しかし、もうあの女性を見ることはなく、あの一度きりで、私の記憶に刻み込まれています。
人生に一度だけ、この世の人では無い人を見てしまった経験談